今回は戸建住宅会社の寡占化が進まない理由について考えてみたいと思います。私は従前ハウスメーカーに勤めていました。車のメーカーの様に、どうして大手ハウスメーカーによる寡占化が進まないのかが不思議でした。以下、小規模な工務店も差別化を図れば、十分大手ハウスメーカーと戦えるのではと、私見を書いてみます。
「持ち家」の着工戸数の推移と大手メーカーシェア
住宅の指標では、国交省が集計している新設住宅着工統計が有名です。その中でも戸建住宅の動向を表す指標は「持ち家」です。一応「持ち家」定義は、「建築主が自分で居住する目的で建築するもの」と定義されていますので、ハウスメーカーや工務店に依頼して建てる、いわゆる注文住宅です。
「持ち家」の推移は、グラフの様に最近はピークの1996年の644千戸から漸減しており、直近2022年では253千戸とピークの4割ほどとなっています。少子高齢化や都市間の移動が少なくなっているため、住宅市場の縮小が進んでおり、受注競争の激化が進んでいます。
プレイヤーである住宅メーカーの販売シェアはどうなっているのでしょうか?一条工務店・積水ハウス等といった大手住宅メーカー8社の建築戸数は各1万戸前後であまり差異はなく、8社合計でも8万戸程度です。残り7割は中堅・中小ハウスメーカーといわれる工務店による建設となっています。
自動車メーカーの販売台数とメーカーシェア
これに対して、自動車メーカーの2022年乗用車の新規登録台数は約240万台で、シェアはトヨタ51%・ホンダ11%・日産9%~9位のダイハツ2%で、輸入車がほとんどであるその他でも11%であり、住宅メーカーに比較して、かなり寡占化が進んでいます。
住宅メーカーの寡占化が進まない理由はどうしてなのでしょうか?
住宅メーカーの寡占化が進まない3つの理由
安心安全を担保する法令による下支え
住宅を建てる消費者の安心安全を担保するために、住宅建築時に守るべきルールを国が建築基準法や品確法のような法律により規制をもうけています。逆に言うと、これらを守れば、工務店の商品も安心安全であると消費者へアピールでき、大手住宅メーカーが品質を材料に工務店との明らかな差別化が難しい要因となっています。
- 建築基準法:日本で暮らす私たちの生命・健康・財産が守られ、安全に快適に暮らせるよう、建物や土地に対してルールを定めたのが建築基準法です。着工前に建築確認申請をして行われる建築確認や、着工後の中間検査、完了検査なども建築基準法で定められています。
- 品確法:住宅性能表示制度や新築住宅の10年保証などについて定めた法律です。住宅性能表示制度や住宅専門の紛争処理体制、新築住宅における瑕疵担保期間10年の義務化3つの柱から構成されています。建物の性能を見極める専門的な知識のない一般消費者を欠陥住宅やトラブルから守るために作られた法律で、住宅の購入者の保護を目的としています。
工場生産でない現場施工
住宅建設は、最終的には土地の形状や気候風土の違う「現場」による施工となるため、工場の様な標準化・効率化を進めることで、原価を極限まで切り詰めることに限界があります。
言い換えると、自動車メーカーの様に工場生産で生産工程の効率化を図り、他社との競争優位に立つ戦略が取りづらい面があります。
特に、現場施工する職人管理による労務費の削減が、住宅建設の場合は天候や現場までのアクセス面から難しいところがあります。この点も大手住宅メーカーが、原価低減による工務店との価格勝負が難しい点です。
一律の価格比較が困難
消費者が、住宅は建物の形状や、構造、住設機器の種類等により、住宅メーカー間の価格比較が非常に難しい点があります。
例えば、同じ大きさのキッチンでも、パネルや水栓、換気扇が違うため、メーカーの同等品を比較するのは非常に難しい状況です。これが外構工事を含めて全部材に及びます。ついては、大手住宅メーカーの価格優位が図れないもう一つの要因でもあります。
競争優位を持つ工務店となるには
上記の理由から大手住宅メーカーの競争優位が進まず、自動車メーカーの様に、住宅市場は寡占化が進んでいません。
例えば、後発のタマホームは、1988年に設立され、それから大手住宅メーカーへと急成長しています。工務店から大手住宅メーカーとなった会社は他にも多くあり、この点が裏付けられています。
それでは、どのようにすれば、縮小する市場の中で勝ち残れるのか?
一つの解答は、他社にない、消費者に受け入れられる凸な点を徹底的に追及していくことです。例えば、早くから省エネ効果を訴求してきた一条工務店や、価格面を訴求したタマホームの様に。