地域通貨と地域振興

お役立ち

地域商品券と地域通貨

コロナ禍等を背景とし住民の生活支援のために地域振興券やプレミアム付き商品券などといった割増の金券「地域商品券」が多くの自治体により発行されています。
この地域商品券と最近再び流行り始めている「地域通貨」とは同じものなのでしょうか?それともまったく別物なのでしょうか?と疑問に思っている人も多いと思われます。
そこで、今回は「地域通貨」ってなんだろうとの話題を取り上げてみたいと思います。少し長くなりますが、お付き合い願います。

地域通貨の歴史

日本において地域通貨は意外と古くからあります。江戸時代の通貨制度は石高制の「米」が基軸通貨であると共に、金・銀・銅の三種類の金属通貨が流通する「三貨」が「法定通貨」として機能していました。ただし、4つの通貨とも現物に紐つけて存在していたため、通貨の供給量の自由なコントロールが難しい状態でした。
それを補う意味で生まれたのが「藩札」という領内限定の地域通貨でした。藩札は、上記4貨との交換は可能でしたが、藩内の経済社会の発展により増大する通貨需要や、藩士や領民の窮乏救済に応えることができました。

地域通貨の2つの機能、及び仕組みと維持費

「地域通貨」とは、地域の団体や行政などが発行する地域独自の「お金」のことで、「円」の様な「法定通貨」がグローバルな経済効率化を図るツールであるとの位置づけとは異なります。
地域経済の活性化(消費促進機能)はもちろんですが、コミュニティの活性化も意図して導入・成立する「補完通貨」です。

通貨の消費促進機能と貯蓄機能

日本円などの「法定通貨」には、大きく分けて「消費促進(交換や価値尺度)機能」に加えて、「貯蓄機能」があります。一方で、「地域通貨」は、貯蓄という機能をあまり重視せず、お金の還流を地域に限定することで「地域経済の消費促進機能」を重視しています。

ポイントの付与

法定通貨を通したグローバルな競争により、国際分業・地域分業による生産効率化が図られています。片や、遠距離通勤やネット販売の進展、少子高齢化などが進行しています。
これらを原因として、従前の衣食住接近を背景とした相互扶助につながる豊なコミュニティが崩壊されつつあります。
地域通貨は一つの役割としてボランティア等に「ポイント」を付与し、価値を与えることにより、地産地消や利他的行為を醸成して、豊かなコミュニティの復活を促す重要な目的があります。

地域通貨制度の仕組みと維持費

地域通貨は、ほぼ国内全域で使える電子通貨であるPayPay・auPAY・Suicaなどと似ていますが、利用可能な加盟店が市や県で限定されていることで域内経済の活性化が意図されています。
また、この電子通貨機能を利用することでポイントや、ボランティアでポイントが貯まったりという、地域限定のポイント機能を併せ持っているのもその特徴です。


一方で地域通貨の運営には、システムの維持費が掛かります。商品やサービスを提供する「加盟店」が売上高に一定の比率を掛けた手数料により負担されているケースが一般的です。導入事例では「めぐりんポイント・マイデジ」「さるぼぼコイン」「ハチペイ・ハチポ」などが有名ですが、地域の人や加盟店等の協力を受けて、この課題と上手に付き合っています。

地域通貨は、汎用性・流動性が低いゆえに、ボランテイアや福祉、環境・社会貢献などこれまで法定通貨である「円」で評価することが困難だったサービスやモノの価値を「ポイント」で顕在化させることができると同時に、
地域資源(ヒト・カネ・モノ・情報)を円滑に循環させ、地域経済を活性化させることができる「補助通貨」なのです。
地域通貨の効果としては、以下の様に「コミュニティの活性化」と「地域経済の活性化」の2つに集約されます。

コミュニティの活性化

地域通貨の成功事例の一つである香川県の「めぐりんポイント」の運営会社の大澤社長は著書「イラストで学べる地域通貨のきほん」の中で
「ボランティア活動において『ありがとう』の気持ちを地域通貨で提供できます。ジュースやお菓子でなく、地域通貨で渡すことで、地元加盟店でコーヒー代として使ったり・・・」、
「多くの企業では、健康づくりに取り組んでもらうために、インセンティブを提供しています。このインセンティブを全国で使える商品券でなく地域通貨で社員に渡せば・・・」、
「香川県ではプロバスケの試合観戦のチケットを地域通貨で購入することができます」の様に具体的に「コミュニティの活性化の機能」を説明しています。

地域経済の活性化

ロンドンに本部があるシンクタンクNEFが打ち出した概念「漏れバケツ理論」は、地域内経済循環の効果を直感的に説明する考え方です。
「地域経済」というバケツに、地域住民・企業・行政が、域内消費・生産活動、行政の補助金・支援金・給付金、企業誘致、観光客の呼び込みなどで沢山の「水」を注ぎ込んでいます。
しかし、住民が地域商品券を使い、域外に本部のある近隣の大手スーパーで買い物をした場合、その大手スーパーの収益は地域外に流出しています。呼び込んだ観光客が当地の土産を買っても地域外で生産されている場合、お金はやはり地外に出ていってしまいます。
これが「漏れバケツ」の状態であり、水を入れても入れても、水は流れ出てバケツに水は溜まりません。

対照的に、お土産を地域産の原料を使って地域内の工場で生産した場合は、お土産の生産のために地域外に流出するお金はずっと少なく、地域で還流し、地域の発展に貢献することになります。
つまり、バケツに水を溜めるためには、「注ぎ入れる水量の増加」だけではなく、「バケツの穴をふさぎ流れ出る水量の抑制」が重要との概念です。
この解決手段の一つが、域内でしか使えず、域内でお金を還流させ、地域経済を活性化させる地域通貨です。

地域通貨増加の兆し

2000年初頭から始まる地域通貨導入ブームにより稼働数は、2005年の306件をピークとして減少傾向にありましたが、最近のスマホのアプリやICカードに代表される通貨のデジタル化に浸透に伴い、稼働件数の減少に歯止めがかかり、上昇の兆しがあります。
泉留維・中里裕美による「2021年版地域通貨稼働調査の結果について」専修大学(2022)の下記グラフに示された主要全国紙における地域通貨の掲載数の推移を見ると、2002年をピークとして2015年までほぼ減少の一途でありましたが、ここ数年は増加に転じています。
足元、地域通貨の稼働数は横ばいから上昇に転じていますし、この先行指標の動きから考えると、今後さらに増加が予想されます。

地域通貨増加の要因

キャッシュレス決済

この増加要因の一つは、コロナ禍によるPayPay・auPAYなど決済端末を必要としないQRコード読取り式の「キャッシュレス決済」の普及により、デジタル地域通貨にも拍車が掛かりました。デジタル地域通貨は、紙の問題・課題を解決でき、導入が比較的容易だからです。

地域商品券の増加

地域通貨とよく間違え・比較されるプレミアムの付いた「地域商品券」があります。地域商品券は、入金額にプレミアムを付与し、期限付きで利用される仕組みです。
対して、地域通貨は、恒常的に利用可能であり、ポイント付与も併用することで、地域経済の活性化を図る設計としています。地域商品券=地域通貨ではありません。
ただし、デジタル「地域商品券」を、地域通貨の仕組みを利用することで、地域通貨の初期利用の促進が図れることも、増加の要因の一つと考えられています。

地域通貨プラットフォームの登場

ブーム大きな要因の一つに、地域通貨プラットフォームといわれる地域通貨を発行・管理するためのシステム、ノウハウ等を提供する事業者が登場したこともあります。
具体的には、フィノバレー社の「Money Easy」やルーラ社の「コーラルライン」、カヤック社の「まちのコイン」、三菱総合研究所の「Region Ring」などです。プラットフォームを利用することで、従前より低廉に導入・運用が可能となります。

ナショナルブランドの電子決済との差別化

地域通貨は「地域貢献をしたい」「人の役に立ちたい」といった「感情に訴求する」ことが重要です。ボランティアやご近所のお手伝い等に参加するとポイントを貰えるなど「街に貢献したい」という経済外的な感情に訴えかける仕掛けとなっているかです。
この仕掛けがなければ、一般的なキャッシュレス決済と変わらず、ナショナルブランドのPayPay等の方が利便性では優位と言えます。
地域通貨を導入する際には、いかに経済的な損得を超えた感情に訴求する仕掛け(コミュニティの活性化機能)を創るのかをよく考えることです。

持続的な手数料体系

また、多くの地域通貨が作られましたが、他方多くの地域通貨が撤退に追い込まれました。その主な原因は「運用コスト負担に耐えきれなくなったため」です。
地域通貨を持続的な運用を図るためには、運営側や加盟店側、ユーザー側にとっても負担が少ない手数料体系はもちろんですが、運用コストを賄える制度の構築が大切です。加えて、運用コスト低減につながる、通貨の電子マネー化や地域商品券・ECサイトとの連携なども鍵と言えます。

地域通貨を導入する地域は今後も増えていくと思われます。今、導入するハードルは先例も多くなっていることから容易となっています。ただ、上記の課題を一つひとつ地道に克服する地域通貨のみが、地域振興に非常に有効なツールの一つとなりえるのでしょう。

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