消滅可能性レポートの深堀りと人口減対策

お役立ち

民間組織「人口戦略会議」は4月24日に「消滅可能性」があると分析した744の自治体名を公表しました。記事としてはセンセーショナルな内容で記憶に残っている方も多いと思います。
私も診断士を通して地域振興に一助でもいいので貢献したいと思っていることから、非常に関心のある記事でした。

ただ、人口減少問題への関心を高めるためとの目的からとしたものの、発表されたレポートは34ページにもわたるため、最後まで読まれた方は少ないと思います。そこで、内容をコンパクトにして、人口増加への取組みも纏めてみましたので、ご参考としてください。

「消滅可能性」がある自治体は、2020年から50年の30年間で、子どもを産む中心の世代となる20~39歳の女性が半数以下に減少する自治体と定義しています。調査対象の40%を越える744自治体が「消滅可能性自治体」とされました。


2014年に別の民間組織である「日本創成会議」公表した報告書では、消滅の可能性があるとされた自治体は896でしたので、比較して今回は改善との報道もありました。

定義だけ言われても具体的なイメージが湧きづらいと思いますので、私の出身地である、大分県や佐伯市を例にとって説明してみたいと思います。

大分県の事例

図は、レポートにある数値を大分県で抽出してみました。
大分県の18市町村の内、消滅可能性自治体はグレーで網掛けした10自治体です。県内半数を超える自治体は消滅可能性があるショッキングな数値だと思います。

ただ、レポートでは減少率算定において「移動想定」が前提となっています。移動想定と対をなす定義に「封鎖人口」があります。この2つの定義は地域振興の方向性を示す非常に重要な概念です。
大分県の市町村は「封鎖人口」を想定した場合は、上記の表にあるとおり、県内どの自治体も消滅可能性に該当しないことはビックリな事実です。

移動想定と封鎖人口

「封鎖人口」とは、鎖国時代のように、同一の市内だけで、出生と死亡だけの要因で人口が変化すると仮定した人口、言い換えると、市区町村間の人口移動が起こらないと仮定した場合の人口です。
例えば、私の故郷の佐伯市であれば、子供を産む世代女性の人口は2050年において2020年に比較して▼16.9%程度しか減少しない推計となっています。

それでは「移動想定」とはどのような内容なのでしょうか?例えば、佐伯市の高校生が大学生になると大都市へ修学し、卒業しても都市部で就職するケースが多いと思います。結果として大学のない佐伯市から若者がいなくなるといった、地域間の移動が続くと仮定した場合の人口推計です。
このため、2020年と比較して2050年では、該当する女性の人口が55.1%も減少し、消滅可能性がある市となってしまうのです。

東京区部の状況

実は、「封鎖人口」を前提とした場合、東京23区は、結婚しない人の割合や出生率が低いため、16の区が▼50%以上減少しています。それ以外の7区も▼40%を超える大変な状況なのです。一番減少している豊島区では▼67.7%も減少するとされています。

大学や専門学校が多く、就職口の多い東京都区部は、ほとんどの区で「移動想定」では1桁台の低い減少率に留まっているので、他の市区町村から非常に多くの人口の流入で自然減を補っているのが解ります。その結果、豊島区は「移動想定」では2050年において▼2.8%しか人口は減らない推計となっているのです。


レポートではこれらを「ブラックホール型」自治体として問題提起しています。

人口減に対する自治体の施策は、当然のことながら地域の人口動態によって違いがあります。このレポートでは、以下のような体系分けをしています。

例えば、豊島区の場合は、上図で言うと、真っ黒に塗りつぶされた領域であり、明らかに自然減(封鎖人口減)対策が重要となります。

一方で、佐伯市はブルーで塗りつぶされた領域であり、自然減対策ももちろんですが、社会減(人口流出・流入)対策が非常に大切であることが解ると思います。

佐伯市における人口減対策の具体例

このレポートでは、消滅可能性自治体である佐伯市の場合は「社会減対策」が極めて必要と定義されています。それではどのような施策が考えられるのでしょうか?

全国の自治体における社会減対策の事例を、「地方創生事例集」内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局・内閣府地方創生推進事務局などから抜粋してみました。
事例からは、大学生や専門学校生などの学生の囲い込みや、都市としての魅力アップ、都市圏並みの所得の働く場確保によるUJIターンの促進が非常に重要となると思われます。

もちろん、長期的には、国による東京など都市圏への大学や大企業の集中の是正と地方への分散が大きな課題だと思われます。一方で、短期・中期的な対策にはどのようなものがあるのでしょうか?

例えば、佐伯市の場合は市内に大学がありません。専門学校に「佐伯市准看護学院」があります。ただ、「准看護師」の学校なので「正看護師」になるためには「市外」の学校へ行かなければなりません。「正看護師」の学校を作ることで、地元への学生に囲い込みの効果があると考えられるかもしれませんね。

学生の地元回帰

消滅可能性自治体でも高校在学までは地元の市町村に留まるが、それ以降の大学や専門学校への就学に際して地元自治体を離れて、結局就学地の周辺で就職・定住する傾向があります。
まずは、学生の地元定着の事例を集めてみました。成功の秘訣は他の自治体と同じ施策ではなく、他の自治体と比べて凸な特徴を持つ施策を打つことが鍵となっていると考えます。

島根県海士町・西ノ島町・知夫村の事例

廃校寸前の隠岐島前高校を「島全体を学校」「地域住民を先生」「地域課題を教材」とすることで高校の魅力を高め、人気校へと進化させる取り組みを実施。全国から生徒を募集する「島留学」などを開始したところ、島前高校の全校生徒数は増加した。島特有の地域資源・地域人材を有効に活用することで、その地域でしかできない教育を追求し、地域活性化に繋がる。

福井県の事例

福井大学では、学生を対象に福井県内にある企業への見学バスツアーや個別企業説明会を実施。学生と地元企業とが関われる機会を提供し、就職のミスマッチを防ぐようなきめ細かい支援を行うことで、地元企業への就職を希望した学生はほぼ地元企業に就職することができている。

大分県別府市の事例

立命館アジア太平洋大学(APU)を県・市・立命館の三者の協力により2000年開学。海外留学生の比率が高く、半数が90の国・地域からの国際学生。また、教育方針として、グローバルにも日本でも活躍できる「ひとづくり」、国際学生は日本語必修とし、約半数の学生が日本で就職している。また、年間約1千人の学生が大分県内での地域交流に参加し、年間約30千人の市民がキャンパスに来学。大学の地方進出の先進的な事例でもある。

(写真はAPUのHPより転載)

地元への人口流入の促進

一旦社会人となった人の地元市へのU・J・Iターンの促進も重要である。その事例についても探してみた。

秋田県大仙市の事例

市街地再開発事業により、地域の中核病院や子育て支援施設などの都市機能をJR大曲駅前に集約させることで、商店街と地域住民の交流施設を兼ねる「まちなか拠点施設」として地域一帯をリノベーション。エリア内の歩行者通行量の増加を通し、地域の利便性の向上と住民活動の活性化を目指し、移住促進を促した。

徳島県神山町事例

県による全国屈指の高速ブロードバンド環境の実現やオフィスの開設・運営費用への補助などの支援を活用し、過疎地域である町内に首都圏の企業などを対象にサテライトオフィスを整備することで、ICTベンチャー系企業などの誘致に取り組み、地域への移住促進に繋がった。

(写真は徳島県 政策創造部 地方創生局とくしまぐらし応援課 学び・働き創造室のサテライトオフィス紹介HPより転載)

以 上

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