はじめに
民間企業の場合、設備投資は、将来の事業運営を左右する非常に重要な判断となります。
一般的に既存設備をメンテナンスしないでいると、更新やメンテナンスを続ける競合他社の設備の効率性が増し、しだいに事業が弱体化していきます。
一方で、地方自治体など公的部門では設備の更新についてはあまり危機感を持つことはないですが、ボディブローの様に地域間の競争力の差となって表れていきます。
そんな中、2024年4月22日のクローズアップ現代で「“水道クライシス”全国危機MAP あなたの町は大丈夫?」というテーマが取り上げられていました。
NHKが独自に「危機MAP」を作成し、そこから浮かび上がったのは、老朽化などで一気に深刻化した、私たちの生活を支える水道事業の実態でした。その影響からか、最近、全国各地で水道料金が値上げされているそうです。
NHKの作成した資料を基に、以下「水道クライシス」のを概観してみたいと思います。
最後に水道事業だけでなく、公的施設の老朽化の現状と今後の方向感にも触れてみたいと思います。
水道施設の老朽化について
水道の老朽化の現状
NHKのレポートで、水道管の老朽化率(40年の法定耐用年数超の管路の割合)が68.7%とトップレベルに高い富山県「南砺市」が取り上げられていました。
その一因に家が点々と点在、「散居村」と呼ばれる田園風景がありました。家々をつなぐ水道管の総延長はおよそ900キロにも及び、1人あたりに必要な水道管の長さは全国平均のおよそ3倍だそうです。
また、平野部だけでなく、山間部にも集落が点在。100近くの水道施設があり維持管理に費用が掛かり、加えて人口がこの10年で1割近く減り、水道事業の収入が減少したのもその要因だそうです。
また、年々上昇してきている老朽化率は、2021年現在全国平均は22%だそうです。
ちなみに、私の故郷である「佐伯市」は19.9%とギリギリ2割以下となっていますが、それでも約2割は耐用年数以上の水道管とも言えます。
水道料金への波及
上述の様に老朽化が進む水道管のメンテナンス費用の確保や、新たな水道施設建設、人口減少などが相まって、水道料金の値上げをする自治体が増加しています。
この様に老朽化した水道管の修理をはじめ、水道事業を回していくには、自治体が集める水道料金だけでは足りないケースも多く、税金などで補てんする事業者の割合が増えています。2021年度は、72%の事業者が水道料金だけでは賄えていないそうです。
ここでも、佐伯市の例を示します。概ね3人世帯の料金(20㎥/月)は全国平均で3,317円のところ、2,520円と比較的低い水準にあります。
福岡県では4,400円以上の自治体も少なくなく、今後は佐伯市においても、老朽化の進行阻止や諸物価高騰のため、値上げをせざるを得ないかもしれません。
耐震補強について
5月1日付け毎日新聞の記事によると「1月の能登半島地震の被災地では一時、11万4千戸余りが断水した。4カ月がたった今、被害が大きかった石川県の奥能登地方の約4千戸ではまだ断水が続いている」との報道がありました。
水道や電気は住民生活に欠かせないインフラの一つです。そのインフラが4カ月以上も復旧しない現実は、非常に重く受け止める必要があると思います。
水道管の老朽化が進んでいることは既に触れた通りですが、もう一つ重要な点は水道管の耐震化です。老朽化のためだけでなく、耐震にむけ強靭化でも、メンテナンスコストが掛かることになります。
佐伯市の事例では、約4割の耐震化は行われていますが、過半の水道管の耐震化がされていません。ちなみに、進んでいる大分市は7割が耐震化されているそうです。
道半ばの断水の解消
石川県などによる「断水の解消」とは、公共施設である浄水場から各地域へ水を送る水道管の「本管」や本管から各家庭に備えられている水道メーターまでの「引き込み管」の断水の解消です。
少し話題がずれますが、水道メーターから住宅の蛇口までの水道管が壊れていたら、本管や引き込み管が復旧していても水が出ません。これは住民が各自で業者に依頼して修理しなければならない部分です。以下、毎日新聞の図参照。
断水が解消しても水が出ない背景には、なじみの水道業者に修理を頼んだが順番待ちとなり、他の手の空いている業者にお願いしたくても同様の状況があります。
さらに、地元以外の業者だと、十分な修理をしてもらえなかったり、高額な料金を請求されてしまったりという不安もあるそうです。
インフラの耐用年数
進む水道管の老朽化
国土交通省が2024年6月5日に発表した「水道事業における適切な資産管理(アセットマネジメント)の推進について」によると、以下の図の様に、年々水道設備の老朽化が進んでいます。
例えば図の様に、20074年には40年以上となる老朽化した水道管(管路)の割合はわずか6.3%であったものが、2021年には22.1%まで悪化しています。
ちなみに、毎年敷設している水道管の0.64%しか直近で更新されていないので、現在敷設している水道管全てを更新するには156年の歳月を要するとも言えます。
法定耐用年数が40年ですから何等かの対策が必須なことは明らかです。
国交省の老朽化対策のアイデアとして
国交省のレポートでは、まずは、水道事業の実態を正確に把握するために、水道施設台帳を作成している水道事業者等は全体の約93%なので、これを100%に引き上げると同時に電子化の推進を勧めようとしています。
また、それと併行して、以下の表の様な点検を含む水道施設の維持及び修繕や、水道施設の計画的な更新等を勧めることで、この課題の解決を図ろうとしています。
項目 | 具体的対策 |
水道施設の適切な管理 (維持管理水準の底上げ) | ・老朽化等に起因する事故の防止 ・点検・補修履歴等を含め、水道施設の適切な把握に基づく管理の実施 |
アセットマネジメント の精度向上 | ・長寿命化による投資の抑制 ・保有資産の適切な把握とその精度の向上 ・水道施設の更新需要の平準化 |
広域連携や官民連携等 のための基礎情報として活用 | ・広域連携や官民連携等の実現可能性の調査・検討等に用いる施設整備計画・財政計画等の作成に活用 |
大規模災害時等の 危機管理体制の強化 | ・大規模災害時に円滑に応急対策活動できるよう、水道施設の基礎情報を整備・保管 |
上記の様に、結局対策に王道はなく、先を見越した地道な管理の徹底に尽きることになります。
公共施設の全体の状況(佐伯市の事例)
地方公共団体において、2000年から財務書類の作成手順が順次取りまとめられ、現在はほぼ全ての地方公共団体で財務書類が作成されています。
このデータを使って、佐伯市の事例を使って、自治体の土地等を除く固定資産(償却資産)の現状を見てみたいと思います。
以下の図は佐伯市の連結ベースの貸借対照表から作成したものです。私が仮に作成したもので正確でない点もあるかもしれませんので、その点はご容赦願います。ただ、おおよその傾向は言えると思います。
佐伯市は償却資産として2022/3期末で4,103億円の投資が過去行われており、その内59%は償却費が計上されており、実質的な資産は1,702億円です。少し桁が大きすぎてイメージできないと思います。
注目してほしいのは2017年には3,444億円だった累積投資が、2022年現在では1.2倍に膨らんでいることです。現在建設されている施設等を維持するためには、将来更新やメンテナンスしないといけない施設数がしだいに増えているとういことです。
また、その償却率が57%から59%と上がっているということは、水道事業同様に、だんだんと老朽化している施設も増えているということです。
まとめとして
前段の水道事業の様に、他の施設等でも老朽化が進んでいるので、将来的に各自治体において、「更新・メンテナンス」投資額がかさんでくる現実があります。
この必要なインフラ維持コストが増していくことに対して、日本では一般的に少子化による人口減が進むと言われている中で、税収はあまり期待できません。
もちろん、少子化や人口増やす対策も重要です。一方で、市町村や都道府県など自治体においては、今からでも、将来を見据えた具体的なインフラ維持の対策を立てていく必要があるのでしょう。
公共インフラは、私たちの生活を支える大切な資産です。サステナブル(持続可能性)に維持できる仕組みを考えていくことは、ますます大変重要となってくると思います。